ベストピア
月刊ベストピア

2007年9月号 第247号

(1)井上清美さんの退職

 本年8月末をもって、井上姉が退職された。私の事務所に入って25年間、よく支えてくれました。 私の上り坂の時でしたが激しい変化が続きましたので、しばしばご苦労をかけ、忍耐をも共にして歩んでくれました。 5回の事務所の引越は、回数を重ねるたびに荷物も多くなり、エネルギーの集中度合いも高めなければならず、 その苦労はひと潮であったと推察しています。社員が退職する度に、その後釜の引継と整理をしてくれたことは枚挙に問いません。 息子の結婚、母の死という私の一大事の時にもよく支えてくれました。今はただ、「ご苦労様、ありがとう」の感謝の言葉あるのみです。
 井上姉は私にとって最初の部外協力者でした。どんな人が最初の協力者であるかは創業者にとってはとても大切なことなのです。 なぜなら企業文化は最初の担い手によって決めるからです。企業文化とは、その職場の持つ精神的雰囲気と言い換えることもできます。
 一度形成されてしまうとなかなか打ち破れないのもので、その雰囲気に馴染まない者をはじき出す作用を持っています。 私の事務所が礼儀正しく、★しくスピード感があって、少し気位が高く、厳しいところがあって敷居が高いと言われたのも、 私と最初の担い手が作り出した企業文化です。どんな優秀な人でも、喫煙者を採用しなかったのもその現われの一つです。 喫煙者は能率を落とすという考えだけではなく、健康管理上、周りに迷惑をかけるということもありました。 採用の条件に喫煙をやめるという誓約書を今から25年前にしていたのですから、その先見性は誇るに足るものでした。
 はじめから土日祭日を休日とし、残業のない職場を作ってきました。午前中に集中的に仕事をするために12時30分までの3時間30分、 昼からは5時30分までの4時間と定め、生産性を高めてきました。整理整頓清掃を徹底し、そのための段取り力も抜群に高い職場を形成してきました。 最初の15年間にはすごいプレゼントもありました。女性スタッフは5年間の勤続によって、ヨーロッパ旅行ができたのです。4人のスタッフが体験していますが、 井上姉は三度の体験者です。誕生日休暇もありました。すなわち、学習できる環境をつくったお蔭で税理士は4人、 30歳で千葉大学看護学部に入った松本姉と自律的な人を輩出することができました。 井上姉は事務所の要としての役割をよく担ってくれ、どちらかというと厳しき社員にもお客様にも接してくれました。 お客様からは井上姉でなければならないという要望も多くあり、最後まで信頼と安心の企業文化を醸成してくれました。 多くの方々から惜しまれての退職です。後半の人生に幸多からんことを祈っています。

(2)コミュニケーションの決定権

 人は常識に気づくスピードが異なるとつくづく思う昨今です。そもそも常識とは何かについても忘れてしまっている場合が私には多いので困っています。 そこで辞書を紐解きましたところ、常識とは、1)「ある社会で人々の間に広く承認され、当然持っているはずの知識や判断力」、 2)「共通感覚」とスーパー大辞林に記されています。この定義からするとコミュニケーションも常識の範疇に属するものですが、 それがなかなか難問でありまして、専門の学問体系がたくさんあり、それ故にコミュニケーションが難しくなっています。
 集団組織におけるコミュニケーションは人間の体組織に例えるならば血液循環体系や精神系統のようなもので、 多様に存在する個別のもの(例えば五臓六腑)を相互に連携させて全体を生かしている命の根底にあるものです。
 ビジネスにおけるコミュニケーションは一般に、報告・連絡・相談の三つに分類されています。この三つは異なるようでありながら、一体のものです。
 報告とは指示に対する応答で縦に働きスピードが要求されます。
 連絡とは自分が知っていること、知ったことを必要な人に伝えることです。誰が必要な人かを判断する能力が要求されています。 必要と判っているのに伝えないというのは組織の中にあっては意地の悪いことです。
 相談とは自分の意見(仮設)をもって他の人にお伺いを立てる(検証)ことです。 はじめは何もわからないという意見をもって聞いてきますから、リーダーは傾聴しつつ、問題設定の仕方から教えられるという能力が要求されます。 このように考えますと、三つの内後の二つは上司が率先してやるべきことであることが明らかですが、社長から社員へ報連相を良くするようにと指示が出ますが、 効率が上がらないことが多い。その原因はコミュニケーションが常識になっていないためです。
 数年前から、ナレッジマネジメントという言葉が盛んに言われるようになっていますが、その一つの側面は情報の共有化を強調しています。 そのことによって共通感覚を作り出そうと知慧を絞ることがもう一つの側面であると私は考えています。 そしてオープンマインドな企業文化の醸成を目指し、働き甲斐ある組織をつくり、生産性を向上させるというのがWin-Winの喜びなのです。
 コミュニケーションの最も難しいところは、その内容の決定権が受けて側にあるというところです。 発信者の意図する通りに受信者に伝わらないということは全ての人が経験しています。 例えば「猫のえさを買ってきてくれ」というメッセージを受け止めてあなたは何を買ってくるでしょうか。 答えは一つではなく、受信者が決めたものが買ってこられ、発信者の前に置かれます。 その時、発信者(あなた)のイメージで異なったものが買ってこられたとしますと、あなたはどんな反応をするでしょうか。 あなたのイメージしたものは「はず」であって、受信者のイメージしたものと異なったことによって「はずがはずれた」のです。 「はずがはずれる」というのがコミュニケーションのもつ本質です。
 私がこのことに気づいたのは50歳のときでした。それ以来、他責傾向が少しずつなくなり、自律の道を歩むようになりました。 このことは岡野嘉宏先生から教わり恩師と仰いでおります。ここまでの原稿は9月3日沖縄行飛行機の中で書きました。

(3)岡野嘉宏先生召天

 9月3日夕方、私は恐る恐る岡野夫人に電話を入れました。
 岡野嘉宏先生は9月2日の早朝に沖縄の病院で家族全員に見守られて安らかに召天されたと、 今親しい人のみでお別れの会をしているところです。ということで、私が今沖縄にいることを伝えて、その仲間に入れていただくことができた次第です。 9月5日(水)先生がとても気に入っておられた新原ビーチから船での散骨式にも参加させていただきました。享年70歳であられた。
 TA(交流分析)を日本の産業界にいち早く導入された功績は、私が述べるまでもなく広く周知されているところです。 全国に先生のお弟子さんがたくさんおられ、特に沖縄は先生が愛された土地でもあり、親しい方が多く、 最後の51日間はご家族とその方々の支えの看護に見守られた。先生を知る者のひとりとして、少々早い召天ではあられましたが、 7年間の透析を受けながら、ただ使命感に導かれて己を★なしくてTAの普及に生涯をささげられた先生には悔いのない誇り高い生涯であったと讃美します。
 9月3日のお別れの会で、私は再度「コミュニケーションの決定権は受け手側にある」の原点が、岡野先生にあることを強調させていただいた。 この常識を産業界に訴え続けた優秀にして希有な戦士であったと私は考えています。ご冥福を祈ります。

志の高いマーケティング、積善のクリエイティブで

 この人の世はまことに魅力に満ち満ちている。この世に人と人の支え合い、彼我の助け合いがあるからだと思う。 人生の価値は、限りある生命を生きること、楽しくよく生きることに尽きるだろう。自らが立つ生活を創出することが最高の華ではないだろうか。 すべてはそこから始まる。私たち人類は、世界各地に発生し発展した文明文化を長年にわたり交流させ、それぞれ独自の生活を創り、 さらに各々がよりよい魅力的な暮らしを創り出している。
 人の日常の暮らしを支える市場は、人の生活・欲望・願い・夢に対応して、様々な商品を供給している。 そして人の暮らしの質は絶えず革新され、進歩し充足されている。市場では生活者のおう盛な生活向上意欲が常に強く求められることが、 前提として必要だ。そしてそれがなければ、社会経済の発展は停滞する。私たちは常にこの世に生きていることの価値、 その歓びを互いに創り出していくことが求められている。より魅惑力のある「生きる価値観づくりと革新・飛躍」が不可欠なのである。 企業の価値とは、輝く技術力、輝く提案力、人間的魅力に溢れる価値観とサービス力を人々の生活向上に、いかに役立てているかで決定される。 人を幸せにすること、人が幸せを感じる世界づくり、さらには企業が提供する商品やサービスによって、彼我それぞれが自立し、自信を持って、 楽しく生きていく華のある世界づくりが企業の使命ではないかと私は考えている。
 常に顧客の欲望を超え、さらに満足の上をいく、「感謝と信頼・敬服」を抱かせるようなエネルギーを発揮している企業、 そして市場に驚きをつくる魅惑の企業が、新しい時代には求められている。長年にわたって、市場と売り場で顧客心理と向き合ってきて、 私はそのような確信に至り、自社の経営に当っている。
 私どもの仕事は消費財商品の「売る時のマーケティング」の専門会社である。いかにして依頼された当該商品の販売を市場・売り場で維持し、 売り上げを拡大するか。七十年間ずっと売り場の顧客心理と向き立ってきた、私ども株式会社システムコミュニケーションズの仕事は、 購買決定の九〇%を左右する売り場での「ブランド価値の創造」である。 どれだけ内容の優れた商品であっても「売られる時に、売り場で魅力が発信できなければ売れない」という真実に基づいて、 当該商品の魅力を売り場で創造していきたい。市場競争力という言葉が重要とよく言われているが、 売り場の獲得も含めて市場競争力とは「売り場での問題解決」に他ならない。 さらに言えば「売り場の競争力強化」ということは「売り場での問題解決」ということになる。 私たちは七十年間一貫して練磨してきた売る時のマーケティング問題解決のための手法を、「売場力」と呼んで独自の技術にまで高めている。
 「売場力」を正しく発揮するために、私どもでは「論理と感性」という二つの理念を重要視している。 論理的手法とは、当該商品の売り場の現況を数値的に正しく把握することである。 そのために私どもでは売り場の数値を把握するデータベース・マーケティング手法を活用する。 当該商品の市場現況と事実を明確化しデータによって問題の所在を発見し検証する。 さらには数値的に期待を予測し、目標を設定する・・・これが確かな成果を期待し、革新させていくための私どもの戦略マーケティングを支える基盤である。
 いま一つは感性の仕事である。言葉とアートによって、売り場で顧客の心へメッセージする「クリエイティブ」という仕事である。 当該商品が持つ魅力を「顧客心理に響くよう視覚化=記号化」する重要な仕事である。 顧客心理の潜在的な必要を、購買決定に結びつけるためには、顧客の価値観と共感・共鳴・共振するための洞察力が求められる。 人々に、よりよく生きたい、もっと楽しく生きたいという、強い欲望と願いが湧くような、そして「買って、 ああよかった」と感じていただける「華のある人生の価値観」を売られる時にメッセージしていくことこそ、 新しい時代に求められる売る時のマーケティングだと考えている。
 「志高積善のマーケティング・コミュニケーション」・・・これが、私たちの仕事であり私たちの商品である。 私の考えでは、人は人のために役に立ってこそ、初めて人となる。 依頼主から、市場から、顧客から、私たちがこの言葉を超えたレベルで評価していただける仕事、 世の中の人々に歓びの生き方を提案する仕事を目標に、 これまで追求してきた「人の生き方=規律と誇り」をこれからも当社の売る時のマーケティングの基本として続けていきたいと思う。