2007年4月号 第242号
互いに学ぶ
(1)小部保育園を訪ねて
久しぶりに佐賀の小部保育園を訪問し、園長の酒井智子さんと親しく語り、自律保育理念実践の場を具体的に見学させていただいた。 25年間あえて無認可を選択して、独自の保育をされていましたが、3年前に社会福祉法人こころの故郷の設立にふみきって、 尚、独自路線を歩まれています。(www.kobe.kyusyu.co.jp)
(2)壁のない縦割りクラス
0歳児から5クラスありますが、各クラスの間仕切りは可動になっており、常時オープンになっています。 左端に0歳児、その隣に5歳児→4歳児→2歳児→3歳児という構図です。私がその時に見た光景を記します。 5歳児の達ちゃんが、10ヶ月児でつたい歩きの出来るようになった幸ちゃんの両手をとって歩行訓練をはじめた。 これは誰の指示でもなく、達ちゃんの意思によるもの、それが認められているのだからすごいと思っていましたら、 達ちゃんのペースで歩み出したとたんに、酒井先生が「達ちゃん、手を出してあげて偉いね。 でもね、幸ちゃんが歩きづらそうにしているのがわかる? 小さい子なのだから、達ちゃんのスピードにはついて行けないの。 幸ちゃんのことを思って、もっとゆっくり歩いてあげて」 すると、スピードが落ちる、幸ちゃんの笑顔が輝く。 「よかったね、達ちゃん。幸ちゃんが喜んでいるよ。ありがとう。」と誉める言葉を忘れない酒井先生、これは一瞬の出来事の一つです。
(3)どうしたらうまくいくか
自分の思うようにならなくなると、幼児は混乱して泣き出してむづかずる。多くの人は「どうしたの、~がしたいのね。」といって抱きあげたりあやしたりする。
それをしないのが「とんちゃん流」。
「~したくなかったの」と言って、その状況を一旦受け入れてあげ、次に「どうしたらうまくゆくの?」と問いをなげかける。
相手が2歳でも3歳でも変ることはない。どうしたらいいか選択肢はたくさんある。その中の一つを選ぶのが自律の一歩である。
それを親や教師が手をかしすぎるから、子供が大きくなって困ると言われる。幼児が何か次の行動を起すまで根気よく待っている。
これができないのが、スピードを要求する今の世界なのです。
(4)冒険心を養う園外保育
初めての人が見たらきっと驚くほどに、子供達のチャレンジ心を上手に育てられる。私も一度ご一緒させていただいたことがありますが、
例えば渓谷に連れて行って水遊びをさせる。はじめは下流の平坦なところで、素足で水の中を歩かせる。パンツ一枚の子供達が水をかけあう、
小石の上を歩く、つまずきながら石をよけて歩く子がいるとすかさず、「どうしたらうまくいくか」の問いと共に「~ちゃんには~する力があると先生は思うよ」
という魔法の言葉が発せられる。小石を避けないことでうまくゆくことを覚えた子供は笑顔になる。「よかったね。よくできたね。
~ちゃんには~する力があるね。」万事がこの通りに動いているので、4歳児にもなると先生の次の言葉が読める子もいて
「どうしたらうまくいくか?ですよね!!先生」と先取りをされることもある。
次に、上流にのぼって川の流れに触れて、自然の怖さも体得するように指導する。普通の保育園では危いと思われることが、
ここでは訓練された先生達によって、日常的になされている。
(5)理念継承の危機をこえて
無認可から社会福祉法人になって、とり巻く環境が大きく変った。多くの考え方の異なる保育士を採用せざるをえなくなった昨年の年度はじめが、
危機であったといわれる。
理念が理解されない、すでに身につけている保育観から出られない人の集団となってしまった。
酒井先生は「どうしたらうまくゆくか」を自問し苦悩しつつも、ひとりひとりに根気よく時間をかけて自らの理念を説明し、納得してもらう血のにじむ努力をされた。
一年で軌道修正を見事に果たされたことを、私はこの目でみることができたわけです。
4月中旬、保育園が最も混乱する時期にもかかわらず、落ち着いた雰囲気の中で「とんちゃん流」が実践されていた。マニュアルの一部を紹介します。
△は一般的な言葉
◎はとんちゃん流
△ 一人でできるでしょ!頑張りなさい。
◎ ○○くんの中には最後まで一所懸命にチャレンジする力がいっぱいあるとお母さんは思うよ。ねぇ、○○くん。
△ 宿題終わったの?早く勉強しなさい!
◎ 早く宿題やった方がいいとママは思うよ。あなたにはやれる力があるとママは信じているよ。
△ いつまでゲームばっかりやっているの!
◎ いつまでもゲームばかりやっていていいかなぁ?○○くんには判断する力があると思うよ。
△ キレイになったね。
◎ 大変だけど最後まで一所懸命にキレイにする力があったね。ねぇ、○○くん。
△ できたじゃないか。
◎ ほらっ、すごいね。○○くんの中にはできる力がいっぱいあったね。
△ 上手に描けたじゃない。
◎ すごいね。観察する力がいっぱいあったね。最後まで一所懸命にやることが素晴らしいと先生は思うよ。
(更に詳細をお知りになりたい方は、前記ホームページで「とんちゃん流魔法の言葉かけ」全46項を印刷してください。)
酒井先生のプロフィールのところに、私の名前を出してくれていますが、有難いことです。
(6)互いに学ぶとは
私は今回、共に学ぶとは表現できなかった。5歳児は0歳児から学んでいることを目で見たからです。
組織においては、上が下を教えることになっていますが、教え方によっては、上は下から学べることがたくさんあるのです。
「こんな能力の低い者に教える気がしない」という上司のもとでは、反抗心は育っても、共に働く意欲がそがれてしまう。
新卒者が定着しなくなった企業組織も反省し、とんちゃん流を学びたいものです。
学ぶには好奇心と謙虚な姿勢が必要です。学ぶ土壌には、人間一人一人の存在価値を認める文化も必要です。
花が降ってきたら
真民先生の新しいスタイルの本が出版されました。
副題は「なぞって味わう しんみんさんの詩集」とあるように、写詩の型をとっています。
書くことで、行間にある意味づけで、新しい発見が期待できる詩集です。
書き出しは「かなしみはいつも」で私の大好きな詩です。
この本の企画は昨年(平成18年)の夏頃はじまり、選考詩集が真美子さんに届いたのが秋頃でした。 すでに真民先生は入院中で、窓から見える山並をみて、故郷の阿蘇連邦を思い出していることが多かったと真美子さんが言われます。 そんな時に、今まで選ばれることがなかった「カタクリコと野いばら」「しばもち」が載っていたので、先生の故郷心を換気され出版が承認されたものです。 あらゆることをお断りになられていた時だけに、この本が世に出ることは特別の思いがあるようです。 編者も出版社も知らずして世に出たこの本に、私はめぐりあいの不思議を思います。“まえがき”は真美子さんが書いておられます。 一部を引用させていただきます。
襖を隔てて、父と母は病床にありました。97歳の父と89歳の母は、ベッド上ながら時に向かい合う姿勢になります。 車いすで家の中を移動できた父は、夕方になると寝たきりの母のベッド脇に寄り、その手や肩をさすりながら「わしゃ、先に寝るけんな・・・」と声をかけて、 自分のベッドへ向かうのでした。一人では話すことすらできない母の横に付き添って、私が休みます。三人が川の字になって、毎夜が更けてゆきました。
若い親達は幼子をはさんで川の字になりますが、私は、老いた両親と私の場合を「現代版・変形川の字」と密かに名づけていました。 母は、片方に大きな手袋をしています。できる限りその手袋をはずし、母の手を握っていようと思う私は、日々時間と闘っています。 手を握っている時の母は、すっかり安心しきって穏やかな顔になります。「手と手を合わす」ということがどんなに大切か、しみじみと感じる瞬間です。 母の赤子にも似た表情に吸い込まれるように、私の気持ちも幼かった頃に戻ってゆきます。
ご注文はFAXにて真美子さんに申込みしてください。タンポポの落款を押して郵送してくださいます。1冊1200円+郵送料合計1,340円です。
本と一緒に振込用紙が同封されます。
FAX 089-956-3181
あとがき
危機一髪のこころで継続することができました。まことにとるに足りない小誌ですが、自分自身へのメッセージとして毎月続けています。
今月号はもうだめかとあきらめていましたが、小部保育園での学びから「どうしたらうまくゆくか」の声に我にかえりました。
それ迄に書いていた原稿は否定的なもので、発表するにははばかれるものばかりでした。
小部保育園では言葉の持つ力について、改めて学びましたので、肯定的な発信にしなければならないと全面変更しました。
浴びる言葉の影響が、魂に伝わるという実習を体験させていただいたのです。ある環境に長年いると、
そこにいる人の精神的雰囲気が同一化されるのに気付きます。例えば、役所には役所らしい人のもつ精神的雰囲気があります。
税務調査を多く受けて、調査官のいつも決っている質問を思うと、その言葉を発すれば発するほど調査官らしく成長してゆくことも、
言葉のもつ偉力だと感じました。とにかく、続けることができる力があることを再認識して歩みます。
